ナポレオンの軍隊 近代戦術の視点からさぐるその精強さの秘密 (光人社NF文庫)

筆者は昨年末から今年にかけて佐藤賢一氏による小説「ナポレオン」全3巻を読みながら、池田理代子氏の漫画「皇帝ナポレオン」、倉田江美氏の漫画「静粛に天才ただいま勉強中」などを思い返したり、読み返したりした。さらに長谷川哲也氏の漫画「ナポレオン〜獅子の時代」「ナポレオン〜覇道進撃」と読んできた。特に長谷川氏の漫画などでは同時代の軍隊の兵科や編成についても詳しく解説されているのだが、説明が項目ごとに分散されていて全体像が捕らえ難くそのために個別項目の理解も不十分に止まっていた。そこで本書が目に止まり購読。今までにも著者の本は結構読んでいる。さて読んでみて、まえがきから第1章でナポレオンの軍隊を理解するカギが密集隊形から散兵戦術への変換であると明示される。そう言えばそうだよなと思いつつ、その辺の描写は上にあげた小説・漫画では限界があったかなと思う。この部分を押さえた上で歩兵や騎兵をさらに細かく分割した兵科ごとの特徴が説明される。著者は陸上自衛隊機甲科将官だっただけに騎兵の説明が詳しい。筆者はこれまで竜騎兵と胸甲騎兵の区別がよくついていなくて、竜騎兵というのは装甲捜索兵＝軽戦車や重装甲車を装備した威力偵察兵科かと思っていたのだが、本書の説明によれば乗馬軽歩兵＝機械化歩兵ということになる。なるほどなあと感心した。兵站に関する言及も落ちがない。このような薄いミリオタ向け啓蒙・解説本としても優れていたが、それ以上にスペインでのパルチザン闘争から現代のゲリラ戦争を踏まえてナポレオンの軍隊の限界を述べた部分も示唆的である。「べ平連」での活躍も知られている堀田善衛氏の「ゴヤ」が引用されているところも筆者の学術的で客観的な姿勢を示唆して興味深い。幕末肥後の国学者である林嚶園の「焦土戦術思想」の引用元が水俣病闘争で知られる「苦界浄土」の石牟礼道子氏の「同伴者」ともいうべき渡辺京二氏の著作であるところも同様である。単なる解説本を期待して読めば余計な寄り道だろうが、筆者にはとても興味深く読めた。そのような本書に物足りなく思った点はナポレオン軍の編成・定員に関する記述だ。他の資料と同様に本書でも歩兵一個中隊140名で一個連隊3970名と24ページにあるが、112ページでは歩兵２個師団＝６個連隊と騎兵１個師団＝４個連隊からなる第一軍団が18000人とあり、数が合わない。筆者は歩兵一個中隊を74人とする資料を見たこともあり、これは定数が時期によって違うのか、それとも損耗などにより充足率が低いまま運用されていたのかその辺が是非知りたいと思った。それで星4つ